今日も寒いですね。
年始は140円を切るかもと思われたドル円ですが、急速にドル高が進み、現在148.14円です。ドル円について書かれた記事を読んで、少し考察してみたいと思います。
デジタル赤字だけではない「もう一つの赤字」が食いつぶすインバウンドの黒字
2024年のドル円相場を考えるというシリーズの一部で、唐鎌大輔氏というみずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストが執筆していますね。
記事の内容は、円安の背景には米国の金利だけではなく、円に対する需給構造の変化が大きな影響を与えているという主張です。その中で、デジタル関連収支の赤字や保険・年金サービスの赤字など、サービス収支の赤字がインバウンド(訪日外国人)による旅行収支の黒字を上回っているという現状を分析しています。
また、新NISAによる外貨建て資産への投資の増加も円売り圧力を強める要因として挙げています。
私の意見としては、この記事は円安のメカニズムを分かりやすく説明しており、データやグラフを用いて説得力のある分析を行っていると思います。
記事によれば、日本の貿易・サービス収支の赤字は、新型コロナウイルスの影響で旅行収支が大幅に悪化したことが主な原因です。
2020年の旅行収支は、訪日外国人旅行者数が前年比で87.1%減少し、出国日本人数も前年比で87.9%減少しました。これにより、旅行収支は8兆4,000億円の赤字となり、貿易収支の黒字を上回りました。このように、日本の貿易・サービス収支は、サービスの輸出入のバランスが大きく影響を受けることがわかります。
個人的には、サービス収支の赤字の中でも、デジタル関連収支の赤字は必ずしも悪いことではないという見方もできると思ってます。
なぜなら、デジタル関連収支の赤字は、日本の消費者や企業が海外のプラットフォーマーやサービスを利用していることを示しており、それは日本のデジタル化の進展や競争力の向上につながる可能性があるからです。
さらに、新NISAによる外貨建て資産への投資の増加も、円売り圧力だけでなく、日本の資産形成や資産運用の多様化に寄与するという側面も考慮すべきです。
この記事は円安の要因を分析する上で有用な情報を提供していますが、それだけでは円安の影響を正しく評価できないという問題があります。
円安は日本の経済にとってメリットとデメリットがあるということを忘れてはなりません。メリットとしては、輸出産業の競争力の向上やインフレ期待の高まりなどが挙げられます。デメリットとしては、輸入品の値上げや資源価格の上昇などが挙げられます。
円安のメリットとデメリットのバランスは、日本の経済状況や国際経済環境によって変わります。したがって、円安の是非を判断するには、サービス収支の赤字だけでなく、貿易収支や第一次所得収支、第二次所得収支など、経常収支の全体を見る必要があると思います。
また、経常収支だけでなく、資本・金融収支や国際収支の基礎収支など、対外資産・負債の動向や国際収支の均衡状態も考慮する必要があります。
国際収支統計から読み取れること
財務省の資料によると、2023年10月までの令和5年度上期中の経常収支は12兆7,064億円の黒字となり、前年同期比で8兆4,834億円の増加となりました。
これは、年度半期ベースで過去最大の経常黒字となります。経常収支の内訳を見ると、貿易・サービス収支は3兆7,400億円の赤字でしたが、前年同期比で8兆7,298億円の赤字幅縮小となりました。一方、第一次所得収支は18兆3,768億円の黒字で、前年同期比で6,942億円の黒字幅拡大となりました。これらの結果から、日本の経常黒字の主体は貿易から投資へと移行していることがわかります。
日本の経常黒字は、投資収益が黒字を支える構造になっていますが、これは日本の経済が国際的に競争力を持つことを示しています。世界第3位から第4位に転落したといっても、まだ世界第4位の経済大国です。
日本は、海外に多額の対外資産を保有しており、その収益が日本の経済に還流しています。また、日本の企業は、海外に直接投資を行っており、その経営効率や技術力を高めています。これらの投資活動は、日本の経済成長に寄与するとともに、国際社会における日本の存在感を高めるものです。したがって、日本は、投資収益の黒字を維持するために、対外資産の質やリスク管理の向上に努める必要があります。
貿易黒字がダメならサービス収支で黒字?
日本の貿易・サービス収支は、貿易収支の黒字が縮小し、サービス収支の赤字が拡大する傾向にありますが、これは日本の経済が多様化する中でサービスの輸出入が重要になっていることを示しています。
日本は、もともと製造業が強みであり、輸出主導で多額の貿易黒字を計上してきました。しかし、近年は、国内の人口減少や賃金上昇、為替レートの変動などにより、製造業の国際競争力が低下しています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大により、貿易におけるサプライチェーンの混乱や需要の減退などの影響を受けています。
これに対して、サービス業は、デジタル化やイノベーションの進展により、国境を越えて提供できる可能性が高まっています。また、サービス業は、付加価値が高く、雇用創出や生産性向上に寄与するとともに、消費者のニーズに応えることができます。インバウンドも重要です。
したがって、日本は、サービスの輸出入のバランスを改善するために、サービス業の国際化や競争力の強化に努め、観光立国としてインバウンドを強化していく必要があります。
京都大学大学院のMBAでは、「観光経営科学コース」がありますね。
為替取引について、実際に支配しているのは外国人
最後に、日本の国際収支とドル円の為替レートの関係について考えます。一般的には、経常収支や貿易収支の黒字が増えると、外貨の供給が増え、円の需要が増えるため、円高になりやすいと考えられます。逆に、赤字が増えると、外貨の需要が増え、円の供給が増えるため、円安になりやすいと考えられます。
しかし、実際には、国際収支による為替レートの変動は、為替市場の規模や他の要因に比べて小さくなっています。国際通貨研究所の報告によると、日本の国際収支による為替取引高は、世界の外国為替市場の取引高の約1割程度に過ぎず、日本円の取引の8割近くは日本以外の海外市場で行われています。
これは、外国人投資家の影響力が大きく、国際収支以外の要因が為替レートに影響を与えることを示しています。例えば、金利差や景気見通し、政治・地政学的なリスク、市場の心理などが為替レートに影響を与える要因となります。したがって、日本の国際収支とドル円の為替レートの関係は、単純ではなく、複雑な要因の相互作用によって決まると言えます。
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